大草原の小さな寒村

孤独に歩め。悪をなさず。求めるところは少なく。林の中の象のように。

『ぼっち・ざ・ろっく!』と、2023年の邦楽インディー・ロック界の覚え書き

10年ほど前の話。

暫く連絡を取っていないが、私には、声優志望の友達がいた。
彼はかなりのヒネクレた“中二病”で、声優学校のチャラい同級生を毛嫌いし、蜷川や富野の「本物の芝居を見ろ」という言葉を真に受け、よく私を、下北沢に居る名も知れぬ小劇団の戯曲に連れて行った。

私には、シェイクスピアも、チェーホフも、お芝居もよく分からなかった。

しかし、下北独特のサークル感。狭い道にシャレた格好の若者が往来し、古着屋やライブハウスのある「下北文化」にあてられた私は、オタク文化圏を一歩出て、いわゆる“サブカルクソヤロウ”の世界に、まんまと導かれてしまった。

ミニシアター映画にはそこそこハマったが、何より私は「日本のインディーズロック」に興味を惹かれた。(それと同じくらい古着にもハマったが。)

東横線から渋谷で井の頭線に乗って下北沢に降り立ち、下北沢を拠点に活動してるバンドのライブや、サーキットフェスには、足繁く通ったものだ。それこそ、下北沢SHELTERにも。

頻度は落ちたものの、古着収集にはまだアクティブなので、革ジャンやら、ナイキのバッシュやら、米軍のベトナム戦争のジャケットの実物を買いに行ったついでに、路上ライブの群衆に入ったり、ただアンプから響くギターノイズを聴きに、全く名前の知らないバンドのライブに気まぐれに入ったりする。

彼らが鳴らす うら若き初期衝動にはエネルギーを貰えるのだ。内輪ノリの強いバンドには場違い感が半端なくて逃げちゃうけど。

下北沢には、独自の重力圏がそこにあって、まだ若い頃だった自分は、駅前の人混みに混ざると、謎の無敵感を感じた。

そんな下北沢文化を題材にした『ぼっち・ざ・ろっく!』。

一台ブームになったこの作品の狂騒が少し落ち着いた今、アレコレと振り返ってみようと思う。流行とは落ち着いてから総括するものである。

ぼっち・ざ・ろっく!に関しては、原作漫画を、――アニメ化以前の――去年の春頃に読んだ。まさかここまで熱狂的なブームになるとは、この時は誰も思いもよらなかっただろう。

私は、ネット越しであるが、今も下北沢のリアルタイムなロックシーンを確認している。

サブスクとyoutubesoundcloudTwitterを駆使して、ヒマさえあればひたすら音楽をDIGる。10年前に比べると、ネット越しでもシーンがそこそこ分かるのは、便利な時代になったものだと感じている。

下北沢に行かずとも、自宅からそこそこ行きやすい中規模以上のハコで演るバンドのライブには行きまくってる。

さて。2022年、下北沢発で一番ブームになったバンドは『サバシスター』であろう。

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期待の若手。フォロワー間でもそこそこ流行ってた。

「ジャージ」。

ぼっちちゃんも、アイコニックな「ジャージ」を着用している。

しかし、このふたつのジャージは、交わってないように感じてしまう。

ぼっち・ざ・ろっく!がアニメ化され、ブームの真っ最中。私は下北系の某バンドのライブに行った(エゴサされたくないので名は伏せる)。観客の大学生ぐらいの男女のアベックが「ぼっちが面白い」「ぼっちちゃんかわいい」という旨の会話を前列でしていた。

しかし、演奏している側は、MCでぼっち・ざ・ろっく!に言及はしないし、Twitterでもバンドマンのツイートにはぼっちの題名は挙がらない。

このずれは何なのだろう。このジャージの掛け違いはなんだろう。

生粋のアニメオタク大御所バンドマン。アニメのご意見番ロッカー、the mirraz畠山氏のブログにある「2022年アニメ総評」では、ぼっちについて一箇所も言及していない。(尤も、でかいバンドなので、ビジネス的にあえて書かなかったかもしれない。)

だが、もはやオタクとサブカルに境界線はない時代だ。アニメを観るのは普通なバンドマンはたくさん居る。アニメアイコンで活動するバンドマンもたくさん居る。Twitterのオタクギタリストのアカウントなんて100万人はいるだろう。

しかし、こんな奇妙な平行線を感じる現状にあるのが、2023年6月現在までの日本のインディーロックバンド業界である。

私がオタクなアニメに関するツイートを連呼すると、リムブロを容赦なくかましてくるバンドマンも居た。

オタクとサブカルには、境界線がないように見えて、未だ文化圏のズレがある。

だけど、それは当然だろう。

そもそも下北沢なんて土地は、特定の目的がなければ行かない場所だ。

ライブをしに/見に行く人。ミニシアターでフランス映画を見に行く人。古着集めで東京中を周り、高円寺と渋谷のついでに古着屋に訪れる人。馴染みの飲み屋に行く人。

下北沢は、観光地ではない。

万人が楽しめるものがある街ではなく、一風変わった趣味に特化した土地。それが「サブカルの街」たる所以の下北沢だ。

オタク文化も一風変わっているが、アニメイトとらのあななんて下北沢にはない。

だが、徐々にその文化圏の「ズレ」も、インターネットを通して、あるいは世代交代を通して変わっていくだろう。

これからの未来は、スマホネイティブ。SNSネイティブの若者たちがステージに立つ。

バンドをやる人なら“読んでて当然”な「BECK」や「グミ・チョコレート・パイン」はもはや古くなってしまった。

そこに「ぼっち・ざ・ろっく!」が新陳代謝的に代入される。

そんな未来はあると思う。