大草原の小さな寒村

孤独に歩め。悪をなさず。求めるところは少なく。林の中の象のように。

板垣恵介「餓狼伝」の再開への期待。または叶わぬ願い。その1。

※注意 筆者は夢枕獏の原作を1ページも読んでません。完全に板垣恵介版のみを解釈した記事になりますので、原作小説との見解の誤りがございましたらご了承願います。

先日。10年以上ぶりに、『板垣餓狼伝』をイッキ読みしました。
これが『刃牙』と並行連載されていたなんて、おおよそ考えられない。刃牙シリーズとは似て非なるテーマと価値観の物語を描いていたこと、その完成度の高さに、驚き、ワクワクして一気に読み終えてしまいました。

流浪の格闘家、丹波文七の本来の目的。

北辰トーナメント編終了後。物語の主人公は丹波文七に戻り、彼にまつわる物語が再始動します。

KC版23巻にて、北辰館トーナメント編は終了。トーナメントのいち観客に過ぎなかった丹波文七の、流浪の空手家で格闘家としての道場破り物語がまた始まります。

文七が動き始めたこと。それと同時に路上のケンカをふっかけはじめた謎の格闘家・村瀬豪三が登場。

村瀬は強豪たちと度重なる野試合を行い、勝利を重ね、ついに丹波文七と衝突したところで、KC版25巻で餓狼伝は終了します。

(こんな場面で終了って、そりゃないでしょッッッ!)

wikipediaによれば、2010年10月12日。このページを最後に連載が止まったまま、何もアナウンスされずに2024年現在へと至っているのが現状です。

現在の「喧嘩稼業」みたいに復活に期待する兆しは僅かにあるのか、それとも「銀と金」のように終わった物語として打ち切られるのか。未知数ではあるところ。しかし、余りにも時間が過ぎてしまったことは悲しいばかりですね。

丹波文七に話を戻しますと、彼の「強者を求めた戦い」って、vs堤城平戦で、もう終わったのではないかと思うんです。

KC版10巻~11巻。激戦を極める堤城平との打撃戦。ここで丹波文七は、自ら鎖で繋いでいた、裡なる餓狼の存在を感じ、解放させた「虎王」で堤を打ち破ります。

そして堤との戦いが終わったある日。堤からの誘いで病院に見舞いに来た文七は、堤と笑って語り合うのです。

このシーン。このシーンで、板垣恵介の描く『餓狼伝』は、ひとつのテーマの着地点に、この上極まりなく綺麗で見事に、鮮やかに、爽やかに着地しました。

刃牙』の場合ですと、刃牙は、最大トーナメント編で「男が誰しも夢見る地上最強」のチャンピオンに君臨し、その後は範馬勇次郎と戦うことを明確に目標に定め、親子喧嘩編でそれが終わり、範馬刃牙本人の物語はそこで終了しました。

範馬勇次郎は、親子喧嘩編で「自らが強すぎて強敵と戦う目的が果たせない孤独」を語ります。

そして、強く育った息子・刃牙との戦いでその目的が果たされ、刃牙のみならず、勇次郎の精神的成長を持って『範馬刃牙』は完結しました。

丹波文七が序盤から強者を求め、道場破りに路上のケンカを繰り返していたのは、前述の堤城平との「楽しい戦い」を求めいたのではないでしょうか。

そして文七は、その夢を叶えちまったわけなのです。

トーナメント編後に路上をさすらう丹波文七は、堤城平とのファイト以上かそれに匹敵する「戦い」を、飢えるように求めていたはずです。

トーナメントに出場した強者たちに、通り魔的ストリートファイトや道場破りをする文七の精神状態は1巻に戻ってしまい、おおよそ堤と「楽しかったな」と語らう笑顔とは全く別である、凶悪な餓狼の笑みを浮かべています。

丹波文七は飢えているのです。飢餓感と同時に在るもの。それは範馬勇次郎と同根の「孤独」ではないでしょうか。

その2へつづく。