大草原の小さな寒村

孤独に歩め。悪をなさず。求めるところは少なく。林の中の象のように。

『劇場版パトレイバー2』の柘植行人考 その2

東京に雪が降ると必ずパト2を見るマンなので、こないだ降ってたとき、またも観てた。

2007-07-02

ある物事を主人公たちに見せつけることそのものを目的とし、その見せ付ける過程が映画になってゆく、そんな悪役を「世界精神型」と呼ぶ。

序盤、柘植行人のゴング隊は、現地の戦場と、本部の司令の「認知のズレ」によって、ゴング隊は壊滅させられる。

ゴングより本部。当該勢力の脅威、更に増大中。発砲の許可を要請する
交戦は許可できない。現在、カナダ隊がそちらへ急行中。繰り返す。交戦は許可できない。全力で回避せよ

柘植が、上述の伊藤計劃の「世界精神型」の悪役だとして、柘植が東京に戦場を演出した理由は何なのか。

僕は柘植の目的は「拡大自殺」と前の文章では述べた。

パトレイバー2って柘植の拡大自殺じゃないの?論 - 大草原の小さな寒村


このクーデターは「拡大自殺」であり、「日本を目覚めさす右翼的な目的」というイデオローグは、僕は否定しない(伊藤計劃は否定していたが)。

だが、もう一つやりたかったことを思いついてしまった。

それは情報の伝達に「認知のズレ」を生じさせる目的だったということ。

パト2世界では、「情報」というものがよく演出される。

PKO部隊壊滅のシーンのあと、ノアがVRでレイバーを操作してるシーン。

この序盤のシーンで、この映画がどういうものか決定付けられる。

とにかく「情報」というものがパト2世界からは切っては切り離せないものなのだ。

ゆえに、ベイブリッジ爆撃をはじめに、自衛隊と警察という国家権力同士が情報のズレによる対立が起こったり。

架空のスクランブルでバッジシステムの情報を撹乱したり。

松井刑事が「電話はどこだーっ」と叫んだり。

状況、ガス!といいつつ単なる着色ガスだったり。

「状況を開始せよ」と始まった柘植一派のヘルハウンドが、東京中の通信施設を破壊したり。

そして何より、このヘルハウンドが東京に繋がる橋を破壊して、東京を陸の孤島にしたのは、東京外部から情報を遮断するためなのだ。

ここで、不明瞭だった、東京だけをターゲットにする謎がここで解ける。

日本の情報のコアは東京だからだ。

情報のズレ。あのパトレイバー2の世界のあとは、「情報」の重要性が問われる社会になっていただろう。

そして、柘植が求めていたのは、情報の撹乱で東京に復讐するのではなく、東京に居る南雲という情報ではない、ぬくもりを求めたのに違いないのでは。